HIROKIさんへの10の質問
今年5月、AMV-JAPAN定例VocieChat会第4回の内容をまとめた記事『「津名」さんにインタビューしてみた!』が投稿されました。
その記事の最後に書かれていましたが、元々この定例会の内容は記事にする予定が無かった為、第4回より前の回は録音をしておらず、それらを記事にする事は諦めていました。
しかし、第4回以降を記事にするにあたり、それ以前に行った会の内容も少しだけでも記事に出来ないかと考え、第1回のゲストであるHIROKIさんに、「テキストでお送りする質問に改めて回答を頂く事は出来ないか」と相談させてもらったところ、有難い事に承諾を頂けましたので、10個の質問を選んで送らせていただきました。
ゲスト:
HIROKIさん(niconico)(YouTube)(Twitter)
“AniPAFE2013″覇者。海外のAMVチーム「Crows」所属。
2012年~2014年には海外のAMVコンテスト"AKROSS CON"に参加し、2014年には「BEST FUN」を受賞。
2014年に開催された「翠星のガルガンティア」の公式PVコンテストで最優秀賞受賞。
2016年以降は「アイドルマスター」のAMV/MADを中心に制作し活動中。
以下頂いた回答です。
01. HIROKIさんは2007年に、ゲーム「大乱闘スマッシュブラザーズ」を使った動画でMAD作者デビューされたとお聞きしました。MADを作ろうと思ったきっかけを教えて下さい。
HIROKIさん:
最初にMADに興味を持ち始めたのは確か2007年の前半~半ば頃で、その頃はニコニコ動画(以下ニコ動)が出来たばかりで、動画上にコメントが流れるという独自のスタイルがインターネット上でウケて人気が右肩上がりで凄く賑わっていました。
そのニコ動を知る前からYouTubeなどのサイトを通じて海外でAMVという文化がある事は何となく知っていましたが、本格的に他人の作る映像作品を観るきっかけになったニコ動でAMVも頻繁に見るようになり、段々とAMVの魅力に強く惹かれていきました。
当時はニコ動のランキングに載ってる動画ばかり見てて、その時に何気なく見たAMVに強い衝撃を受けたのを覚えています。
当時もっともニコ動で話題になっていたSkittles(作者:Koopiskeva)など、色々なAMVがニコ動に転載されていたので、毎日何かしら観ていたと思います。
(Skittles 作者:Koopiskeva)
まるで公式MVと思わせるかのような出来の良い作品もあって、それが個人製作のAMVであることを知った時は「こんな創作の世界があるのか!」と自分の今までの固定観念がひっくり返されたかのような、好奇心に満ち溢れた感覚になりました(余談ですが、当時はイラストレーターや漫画家の夢を目指しては挫折する事を繰り返していたので、思い返してみたらAMVにハマったのは現実逃避的な側面もあったのかもしれません)。
ただ、いくら好奇心はあってもAMVは僕にとって「自分が迂闊に足を踏み込む事が出来ない神聖な領域」みたいな感覚があって、「そもそもどんな編集をすればAMVになるんだ?海外の曲を使えばいいのか?それっぽいエフェクトをかければいいのか?」と分からないことだらけだったので、まず自分が目に付けたのは、ニコ動でAMVと同じくらい、むしろそれ以上に流行っていたMADというものでした。
当時の自分はAMVとMADの違いなんてよく分からなかった(そもそも明確な違いの定義は無いと思う)けれど、それでも直感的に「MADなら自分でも作れそう!」と思って、親の許可を得て買ったノートパソコンに入ってるムービーメーカーで作ってみた次第です。
最初に大乱闘スマッシュブラザーズXでMADを作ったのは、当時の流行だったのと、映像が入手し易かったのが理由です。
アニメと比べてゲームの映像は規制が緩かったので。
(sm2177469 大乱闘スマッシュブラザーズX - GONG -)
02. 2012年~2014年には、海外のAMVコンテスト「AKROSS CON」にも参加され、「AKROSS CON 2014」では『KNOW YOUR ENEMY』でBEST FUNを受賞されましたね。海外のコンテストを経験してみていかがでしたか?感想や印象に残っているエピソードがあれば教えて下さい。
HIROKIさん:
まず最初に感じたのは、本来アウェーである自分を受け入れてくれたという喜びでしたね。
日本のコンテスト(AniPAFE等)も例外では無いのですが、この手のコンテストはどうしてもホームの人達の評価が優遇されてしまう傾向があって、それ自体は全然悪い事ではないにせよ、2012年、2013年に参加したAKROSSでは自分にとっては苦い結果になりました(勿論、当時の僕の実力不足でもあります)。
なので、3年目にしてやっと成果が出せたのは凄く喜ばしい事でした。
(sm25600560 KNOW YOUR ENEMY)
03. 2015年には、海外のAMVチーム「Crows」に加入しました。どのような経緯で加入に至ったのでしょうか?
HIROKIさん:
AKROSSを通じて、仲の良くなった海外のAMV作者が何人か出来て、そのうちの一人(確かカナダの人だったと思う)が僕の事を今のCrowsのリーダーに紹介したらしくて、それがきっかけでCrowsが僕に興味を持ってくれたみたいです。
2015年頃のニコ動にはフレンド機能というものがあって、登録した者同士でメッセージのやり取りが出来たんですが、とある英語名のアカウントから突然長文の英語メッセージと一緒にフレンド申請が届いたときは流石に状況が理解出来ずに面食らってしまいました(笑)。
メッセージは「あなたを我々のチームに招待したいから、一度Skypeで連絡をくれ」みたいな内容だったと思います。
加入するきっかけになったのは相手からの熱烈なアプローチと、自分自身の「面白そう」という興味でしたね。
04. 「Crows」ではMEPも経験されていましたね。海外のAMVチームに所属してみていかがでしたか?感想や印象に残っているエピソードがあれば教えて下さい。
HIROKIさん:
僕自身が英語をそんなに得意としていないので、チーム内でMEPをやる時は作風や前後パートの繋ぎの打ち合わせでかなり苦労しました(笑)。
CrowsのメンバーはAMVの制作にかなり高い意識を持っている人達ばかりで(それ自体は素晴らしい事ですが)、MEPに関しても妥協は無かったですね。
自分のパートを提出しても何度も駄目だしされましたし、「ここをもうちょっとこうしてくれ」みたいな修正案を分かりやすい英語で教えてくれました。
それでもメンバーの意図を完全に汲み取りきれなかった自分に何度も不甲斐なさを感じていました。
ですが、振り返ってみると得られたものもかなり大きかったと思うので、今となっては「やって良かった!」と思っています。
Crowsのメンバーは皆良い人達ばかりです。だから当時の自分も頑張れたのかもしれません。
([MEP] The Frenzy、HIROKIさんパート ⇒ 2:48-3:17)
([MEP] Jiàn、HIROKIさんパート ⇒ 1:32-2:00)
05. 2015年に公開した『The Eyes』以降は、アニメ・静止画両方の素材を組み込んだ構成の動画を作るようになりました。こういったスタイルの動画を作ろうと思ったきっかけは何ですか?
HIROKIさん:
当時の自分は積極的に流行りを取り入れるスタイルでした。
まどマギのMADが流行っていた時はアニメ映像とハノカゲさんの描くコミカライズを組み合わせて作る人が多かったので、自分もそれにあやかった感じです(表現の幅を広げる為でもありましたが)。
それでも、他の人を出し抜く様な魅せ方がしたい!という気持ちも強かったので、「何となくアニメと漫画を組み合わせてみた」ものじゃなくて、組み合わせる事に意味を作り出したかったんですよね。
ただ組み合わせただけだと流行りに乗っただけの小手先の演出で終わってしまいそうで。
もちろんそれで終わらせたくなかったので、意味を作り出す模索は結構してきたつもりです。
組み合わせる事で初めて出来る表現の可能性を信じて追求し続けていきました。
(sm27316300 The Eyes)
06. 2016年以降は、「アイドルマスター」のAMV/MADをメインに作られるようになり、アイマスのMADイベントにも多く参加されてきました。アイマスへの強い思い入れを感じますが、HIROKIさんがアイマスに出会った・ハマったきっかけを教えて下さい。
HIROKIさん:
アイマスはアニメで好きになりましたが、きっかけはやはりMADでした。
2011年頃からアイマスのアニメ(以下アニマス)が放送されていたのは当時から知っていましたが、その頃は全く無関心だったというか、むしろアイドルコンテンツ自体に軽く拒否反応があったくらいです。
でも、自分の知ってるMAD作者(それも複数人)が様々なアニマスのMADを作っていて、それから自分もアニメに少し興味を持ち始めて試しに観てみたらもうドハマリで(笑)、それから「自分もアニマスMADを作ろう!作らなきゃ!」と思って初めてアニマスで作ったMADがワンオクの「未完成交響曲」と合わせたやつでしたね。
完成させたことも嬉しかったんですが、ニコ動にそれを投稿したら予想以上の反響で、それから色んなMAD作者やニコマスPと知り合う事が出来ました。
(アイドルマスター 未完成交響曲)
今、改めて考えると、自分は「アイマスにハマった」というより(勿論それ自体は否定しませんが)どちらかというと「アイマスでMADを作る事にハマった」んだと思います。
アニマスにハマった後はアイマスのコンテンツにもっと触れるべくゲームやCDを買ったりライブに行ったりもしましたが、コンテンツ自体にはそこまでハマる事は無かったです。
これを思い返すと、あくまで自分はMADで表現する事が好きなんだなぁ、と思います。
07. これまで多くのAMV/MADを視聴されてきたかと思いますが、1番好きなAMV/MADを1本挙げるとしたらどれですか?良かったら理由もお願いします。
HIROKIさん:
一番を選ぶのは難しいですね…。
あえて選ぶとしたら、僕をAMVの世界に引き込んだ最も引力のある作品として、プリンセスチュチュのHold Me Now(作者:alkampfer81)を挙げさせていただきます。
映像と曲の合わせ方が上手いだけじゃなくて、世界観と雰囲気の表現も本当に見事で、もう圧巻でした。
2006年のAnime Bostonというイベントに出されたAMVなのでかなり古いですが、今でもたまに観返していますし、トータルでもう何百回も観てると思います。
「原点にして頂点」とは正にこの事を言うんでしょうね。初めてこのAMVを観た衝撃を今でも自分は追い続けているんだと思います。
こんなに凄いものを自分の手で生み出す事が出来たらどんなに楽しい事か、このワクワク感が今までの自分、そしてこれからの自分の原動力の一つなんだと思います。
(Hold Me Now 作者:alkampfer81)
08. これまでご自身が作ったAMV/MADの中で、最も気に入っている或いは思い入れのあるAMV/MADを1本挙げるとしたらどれですか?良かったら理由もお願いします。
HIROKIさん:
これも一本を選ぶのは難しい(笑)。
以前にじょんさんとの通話の時に同様の質問を貰った時は、確かニコ動で公式に開催されたガルガンティアのPVコンテストに出した動画だとお答えしたと思います。
ニコ生の結果発表で最優秀賞が僕だと発表された時は、当時はまだ若手の声優(今ではアニメ好きなら誰でも知ってるくらい有名な声優)から「凄いです!感動しました!」っていう感想が貰えてとても嬉しかったです。
(sm23907006 この空と海の全てが)
でも今改めて考えると、一番を決めるのはやっぱり難しいですね。
初めて自分のMADが本格的にニコ動でウケたのはアニマスのMADでしたが、それ以前に作ったブラックロックシューターのMADでは、当時の僕が尊敬してた色々なMAD作者からの反応が貰えましたし、それより後に作った「The Eyes」は中国のbilibiliで大きな反響がありました。
2020年のAniPAFEで「Never Forget!」を出した時は色々な人から「おかえり」の言葉が頂けて、僕を待ってくれてたんだなぁと思いました。
どの経験も嬉しくて今でも鮮明に覚えています。
(sm37602283 Never Forget!)
他人の評価と関係なしに作った僕自身が気に入っているMADを選ぶとしたら「Cherish」ですね。
今までやりたいけど出来なかった事を全て注ぎ込んでやり尽くした!と思えるMADに出来たので、単純に自分自身で好きだと言えるMADです。
(sm30126322 Cherish)
09. これまでAMV/MAD作者として活動してきた中で、特に印象に残っているエピソードがあれば教えて下さい。
HIROKIさん:
記憶を思い返してみたんですが、「これが特に印象に残った!」というのが無いんですよね。さっきからハッキリしない回答ばかりですみません(笑)。
自分はずっと作りたいときに本腰入れてMADを作って、観たいときは作る手をいったん止めてひたすら観るっていうマイペース型なので、来年で作り始めて15年とはいっても本当にゆるーくやってきた感じです。
でも、色々な人のMADを観てると、やっぱり凄い出来のMADは時代ごとに沢山生まれて、尊敬するMAD作者がその都度に出来て、そんな人たちが自分のMADに興味を持ってくれて、向こうから自分に話しかけてくれたり、「貴方とお話し出来て光栄です!」なんて事も言ってくれて、「いやいやこっちの台詞だよ」と思いつつも嬉しかったし、なんだか不思議な感覚を何度も繰り返しています(AMVの界隈でもたまにあります)。
これはMADを作り始めていなかったら味わえなかった感覚でしょうし、多分これからもMADを作り続けている限り同様の経験は何度もあるんじゃないかなと思います。
10. 最後に、HIROKIさんが現在、AMV/MADを作る(作りたいと思う)理由、そして、HIROKIさんが感じるAMV/MADの魅力を教えていただけますか?
HIROKIさん:
今まで、切り貼りMADや静止画MAD、音MAD、そしてAMVと、色んな創作の世界観や価値観に触れてきました。
それによって自分の中の色んな変化もあったと思いますが、10年以上前からずっと変わらず自分の中にあるのは「観てくれた人の記憶に残るものを作りたい」という気持ちなんですよね。
スタイリッシュでインパクトのある編集で視聴者を圧倒させたり、感動的なアプローチで視聴者の情動を揺さぶったり、魅せ方は様々ですが、せっかく視聴者が自分の作ったMADを選んで観に来てくれたわけですから、その時間を無駄にさせたくない。
MADの感想で「凄い」とか「神」と言ってもらえるのも嬉しいんですが「観て良かった」と言ってもらえるのが自分は一番嬉しいです。
MADやAMVの魅力って一言では到底語れないんですよね。
MADを通じて原作の「ココが良いよね」を視聴者と共有したり、高度な映像表現を静止画と掛け合わせてアッと言わせるような映像を作ったりと、そのスタイルは作る人によって多種多様です。
この記事をここまで読んでくれている人の多くが知っていると思いますが、AMVやMADには作り方の”答え”が無いんです。
答えというのは要するに「MAD(AMV)はこうあるべきだ!」というやつですね。
勿論そういう考え方を持ってる人は一貫性があって素晴らしいと思うし、否定はしません。
ですが、時代と共にアニメや漫画、そして楽曲の表現も変わっていって、編集や加工に使う動画ソフトもどんどん進化していって、それに連動するようにMADやAMVもどんどん形を変えて、その時代の風潮に合わせてアプローチの仕方も少しずつ変わっていく。
そういった変化の過程を眺めるのも、今後の楽しみの一つだったりしますし、僕も作り続けていく限りは色んなものを観て、出来る限り自分自身の糧にしていきたいと思っています。
以上です。
HIROKIさん、お忙しい中、ご回答ありがとうございました。
後書き:
HIROKIさんに大変興味深い回答を頂く事が出来ました。
これからどんなAMV/MADを作ってくれるのか、1人のファンとして引き続き注目していたいと思います。
各回メインゲスト
第1回:HIROKIさん
第2回:mizugorou_753さん
第3回:さんちぇさん
第4回:津名さん
第5回:まさか!さん
第6回:babanさん
第7回:Pluviaさん
第8回:大麦さん
第9回:こばやしさん
第10回:シャンリーさん
最終回:inaさん
番外編:いはさん
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