babanさんへのインタビュー

2022-10-01Column

AMV-JAPANでは昨年まで、だいたい月に1回程度でDiscordを使用したVoiceChat会を行っていました。
毎回ゲストを迎えてゲストに関連するお話しを聞く内容です。
6回目(2021/05/08)は、今までと異なるジャンルの界隈の方と交流してみたく、静止画MAD界隈から「baban」さんをお迎えしました。

参加者は、

ゲスト:
babanさん(Twitter)(ブログ

静止画MADに関する情報を発信するサイト「Skyscraper」を運営。
2019年~2021年の「あなたが選ぶ静止画M@D大賞」主催。
※前年に投稿された静止画MADから最大10本を選んで投票するイベント。

主催者:
いは
ころころ
じょん

でした。
以下、VoiceChat会の一部をインタビュー形式でまとめたものです。


–babanさんが静止画MADを好きになったきっかけを教えて下さい。

babanさん:
友人からはじおうさんの「ヲタクのMADビデオ」を見せられてMADと出会ってから
MADを見ているうちに、当時黎明期だった静止画MADに出会ったのがきっかけです。
MADというとネタMADが主流だったのですが何か違うものを感じるようになって、2021年までにだんだんと静止を主に見るようになった感じです。


–babanさんは、中国のMADイベント「MAD黄金祭2020」で審査員を務められていました。中国のMADのレベルは、babanさんから見てどのように映っていますか?
※「中国と日本のMAD交流」をテーマにした、Mira Mad Team主催の招待制イベント。2021年3月~4月にかけて行われた。

babanさん:
審査員と言っても、何か特別なことがあったわけではないのですが…。

中国ってプロを目指す人がその過程の中でMADを作るというのがあるんで、静止系は強い。
日本と同等か気持ち上くらいな感じしますからね。玉石混合ですが勿論。

ころころ:
中国は静止画MADもAMVも凄いし、やっぱり人口いるだけあるよね本当に。

じょん:
イベントの規模も違いますね。

babanさん:
中国はお金が入るようになってきてからだいぶ空気感がピリピリしてるとは聞いてますね。

ころころ:
お金が入ってくるというのは?

babanさん:
イベントで上位を取ると賞金が付く。あとは動画制作会社とかが優秀な人をリクルーティングする。
それが許される空気感っていうのが中国って感じですね。自由というか、「お、おう・・・」というか。
日本は御膝元なんで、権利を蔑ろにして作っている人が謝礼もらっていいんかっていうのがありますからね。

中国って、私等から言わせると所得3分の1から4分の1の国のはずなんですよね。まぁ都市部と田舎だとだいぶ変わりますけど。
その中で1位数万円とか出るとだいぶ空気感変わると思うんで。

じょん:
Bilibili主催のMADイベント「Bilibili Contest 2020」は、賞金総額が約百万円でした。

babanさん:
これがお国柄なんでしょうね。日本だと賞金付きの大会と言っても、ポケットマネーの範囲内。
中国はお金に関しては割とドライですけど出す時は出す感じですからね。
結果、(参加者は)お金取りたいんで人を叩く文化になって、出る人達が去っていったというか裏に行っちゃったみたいな。それが2014、5年ぐらいかな?

じょん:
2014、5年ぐらいから賞金付きのイベントが増えてきたんですね。

babanさん:
という風に聞いてるんですが、それがどこのイベントからって所までは私も把握してないんで、ただ空気感の変化は感じましたね。
春秋合戦というイベントがずっと行われてたんですけど・・・。

じょん:
いはさんも運営に協力されてました。

いは:
何度か協力してましたね。

babanさん:
イベント名は確か日本の軍魔さん主催の紅白MAD合戦が由来になってたと思います。
その春秋合戦が2015年に無くなっちゃったんで。

じょん:
空気感の変化が要因としてあったという事ですか?

babanさん:
らしいです。
それ以降は作者陣の顔ぶれがだいぶ変わったと伺ってはいる。

いは:
空気変わった時、春秋の人達は、揉めてましたね。
日本の人と考え近かったので、お金出すとは何事だって。

babanさん:
(賞金付きのイベントが増えて中国のMADが)レベル上がったか下がったかっていわれると、自分の肌感としては変わっていないですね。2015年当時からすでに十分レベル高かったんで。
お金出したら上がるのか?といわれると、どうなんだろう?って感じしますね。

個人的な意見を言うと、プロの人がたまに自分の好きなMAD作って出すのが全然OKな風に持っていくっていう方が全体としてはありがたいのかなって気がしますね。
プロの人の務めてる会社によって方針は変わると思いますが、自由な気風の会社が、「ニコニコに動画上げてても消す必要ないない。」っていうのが当たり前になる割合が増えていく方が自分としてはありがたい。
シームレスにプロとアマチュアの境目が無いというか薄い、当たり前に連続して繋がる方向に行くにはどうすればいいのか、っていう風に日本なりに考えた方が賢いのかなって思います。


–先程「権利」というワードが出てきました。「MAD」とは切っても切れない関係にある「著作権」ですが、babanさんは現在の著作権法についてどう思いますか?

babanさん:
個人的な意見ですけど、著作権って基本的に「お金をどうやって儲けるか」って所以外触れない法律だと思うんですよ。その趣旨は、広く文化を発展してもらう為なんですよね。「広く文化を発展してもらう為にはお金が必要だから、儲ける土台だけは法律として用意した。後は知らん。」っていう。

じゃあ町の絵画教室とかで楽しんで絵を描くのは文化じゃないのか?
ピアノ教室でピアノを教わって覚えていく過程は文化ではないのか?
同じように、ニューヨークの壁の落書きは文化として認められていなかったのか?今でもそうなのか?

インターネットというのが登場して、誰もが作り手になって誰もが発信する時代になった。その時に「お金をどうやって儲けるか」っていう法律だけでこの枠組みは成り立つのかっていう。
広く文化を発展する為には、どういう枠組みが正しいのかっていう所で考え直さないといけない状態になってるんですよね。

いは:
私もそう思います。

じょん:
著作権法も古い法律なので、今の時代に合っていない点もありますね。

babanさん:
そうですね。
元々著作権って、最初は多分絵とか描いたものだけだったんですよ。
その後レコードってのが出版されるようになって大きく1回変わった。
書籍・小説を書いて出版するとかレコードを出版するっていうのが出て、そこで著作権って今の形が出来た。それだとずっとパッチワークなんですよ。

例えば、ライブハウスとかでレコードを流すとする。でも同じ曲を流してると面白くないんで、DJがMixする。
これって文化として定着して、新しい楽しみ方としてお金を生んでるんですよね。

著作権者がお金を取ろうとすればするほど、新しい産業の芽って潰れていく。
じゃあ本当に大事な物以外は基本的には放置していただけるような形にした方が・・・。

例えば漫画村とかは言語道断で、ああいうものに対しては強い措置が取れるようにしておいて、創作ととれるものに関しては、なるべくお金を取らないように出来るような状態にしておく方が結局強いはずっていう。というか日本はそうやって成功してきた国ですし。

多分著作権って、文化はどうすれば広く発展するかっていう所に対して模索する方向に入れ替わらないと駄目なんですよね。

いは:
楽しい話だ。

babanさん:
ただ法律の条文1個変えるのって大変だと思うんですよ。
例えば民法って基礎の法律ですけど、民法の法律1条変えると、他の人の所有してる権利の法律って色々変わる。例えば土地の所有とか都市開発法とか、そういう関連するそれぞれの持ってる権利に対する色々な変化が関わるんで、色々チェックして回らないといけない。
結局、著作権も変えるとなると大変。

いは
大変と言うか、政治家がやる気ない。企業から言われないとやらない。

babanさん:
やる気無いのが一番ありがたいんですけどね、多分日本は。著作権にやる気を出しても、金にならんっちゃならんですからね。
結局文化って、生活の余裕から出てくるもので、ゲーム産業が業界規模が何兆円とか言ってますけど、自動車ってそれと比べて産業の規模が一桁違うじゃないですか。住む所とかも同じようなものなので、そういう生活に必要な物に比べれば、ゲームとか漫画とかは政治の人たちを札束で殴る力が弱いんで。政治家のやる気も一桁落ちますよね。

とはいえ、皆それを楽しみに生きてるんで。
この著作権法をどうしていくか考え直すと次に繋がると思います。

いは:
悪い方には行かないで欲しいですね。


–babanさんは長い事MAD界隈で活動されてますが、今まで実際に会った事のあるMAD作者さんっていらっしゃいますか?

babanさん:
へべれけさんだけですね。地元が同じです。

じょん:
へべれけさんといえば面白いMADを作られますよね。

babanさん:
そうですね。元々飛び道具が多いというか、普通のじゃ満足出来ない体になっちゃってるって感じなんで。
そういう方向で進化させたい、そういうの作りたいって言ってるんで、段々多分通じる人減ってると思うんですけど(笑)
あの新しさを理解してくれる人って玄人だと思うんで。

いは:
玄人w

babanさん:
でもそこを分かった上でそれを作るって方向性はやっぱ皆自由なんで。

結局私達って好きなものを好きなように作ってるんで、ネットの海に放流するって事は誰か認めてくれる人が欲しいと思うんですけど、「いつも交流してる数人でも良い」って人もいるし、「誰か1人に引っ掛かれば良い」という人もいますけど、届けたい人が「良いね」って言ってくれたら勝ちだと思うんですよ。
再生数の多少に関わらず、本当に届けたい人に届いたら勝ちだと思うんで私は。

へべさんはもう古のネタMAD師ですけど、長く作ってる内にもう今までのじゃ満足出来なくなったんだろうなと思うんで。

現代アートとか現代音楽とかも、意味分かんないと言われるものいっぱいありますけど、あれはあれで意味がある。
ああいう次のフォーマットを模索する方向に行ったと思うんで、へべさんもこのまま現代アート的なネタMADの方向に進んで行ってほしいなと思います。

静止画は、人を選ぶジャンルとして進化してきた歴史を見てるんで、そういう風に進化の歴史を見ていると、流れとか次を作る人ってやっぱり変な人が多いんですよね。

いは:
突然変異は大事!

babanさん:
そうですね。それが次に繋がるので。

いは:
進化の重要な過程ですから。


–「流れ」という話がありましたが、静止画MADの歴史を見た時に、今の流れを作ったMADを挙げるとしたらどれですか?

babanさん:
静止画MADの今の流れって大体2001年までに出来上がってて、その流れを作った動画を挙げろって言われたら4本あって。

まずは、今に繋がる最初の静止画MADといわれている、るかかさんの「残酷な月島のテーゼ」(1998年)。

(転載)

次に、原作の良さを引き出して、皆が知らない作品でも原作を追体験出来るっていう、るかかさんの「ONE補完ED」(1998年)。
この時に今の静止画MADの方向性ってほぼ決まってますね。

(倉庫番さんによるリメイク)

そして、それまでの静止画MADってアニメソングばっかりだったんですけど、J-POP使って作るの全然アリなんだって流れを作った、乃怒亞女(のどあめ)さんの「メビウスONE」(1999年)。

(転載)

最後に、乃怒亞女さんの「ConcLude:Another Style Abyss-infinite rhyme」(2001年)。
原作を咀嚼し直してストーリーを組み直したり視点を変えたりする作品ってのが後々出てくるんですけど、その系譜ってこの動画に繋がってます。

(転載)

概ねここまでの作品で今の静止画MADって流れが説明出来て、これ以外の亜流もあるけど、本流としては残ってないっていうか。

ネットで現れたものって最初の3年間でジャンルが固まると思うんですけど、静止画MADの場合はそれが98~01年だったなって印象です。

そこからはゆっくりと技術の進歩が進んでいます。
2019年以降の流れだと、静止画がだんだん動画になっていくとか、これは完全に技術の進歩ですしね。今だになんというか頭が付いてこないですけど(笑)

じょん:
付いてこないんだ(笑)

babanさん:
私はやっぱり古い時代に魅力に気づいて慣らされた人間なので、その時代に発展したやりかたとしてテキストが活きてる方が好きで、無駄に動かすとノイズになるんで。
最近だと、ALINCOさんの「哀しくならない方法」とか全然動かないけど最高だった。っていうか寧ろ動かないのが最高だったな。

技術って数年で他の人も追いついてくるんで、長いMAD史の中では比較的長く残らないというか記憶に残る作品としては忘れられがちになる。
「あなたが選ぶ静止画M@D大賞」で、その年のランキングで上位を取った技術的に凄いMADも、歴代ランキングになるとどんどん順位が落ちていく。
結局技術は、載せたいテーマに勝るものではないので、記憶に残るという意味では技術は弱い。好きな作品の原作愛が上手に詰まってると、技術を凌駕したりするので。
ゆきのふさんとか、切り貼りで勝負して魅せるっていう魅せ方というか、頭の中のイメージがちゃんとしてるんでしょうね。

でも(静止画が)動いたら動いたで凄いというか、NanatsukiさんとかYuukiザさんとか本当進化させてるんで。

個人的には、技術は調味料みたいなものだと思っていて、入れすぎると辛い。
でも新しい調味料とかくるとやっぱりそれはそれで新しい感覚なんで凄い美味しく感じる。
その内素材の味が一番だねってなる。っていう感じです。


–最後に、babanさんが思うMADの魅力を教えていただけますか?

babanさん:
なんだかんだで長く界隈に居ついてしまいました。
他の所に何かあるかとも思って巡ってはいるのですが、
オリジナルの映像では世界観の説明も無いまま自分の最強の世界を始められるので理解が難しかったり、ゲームのOPでは作品の説明に終始してしまう中で、
原作の世界観と作者の世界観、持つ技術と情熱とセンスを1曲の中に詰めていく静止画MADに戻ってきています。
自分の表現にこだわった結果伝わらない事も、すごい人の技術の技術に打ちひしがれる事も、思ったように再生数が伸びないで悩むこともあるでしょうが、そうやって進んでいく過程も含めて総体として愛してはいるので、作る事は苦しいけど消費する事の10倍楽しいのでその呪いを大事に進んでください。
少しでも良かったと思ったらいいね推して8888流しておくことくらいしか出来ませんが、それくらいはやることをお約束します。


以上です。
たくさんの話しを伺うことが出来ましたが掲載された内容はVoiceChat会の一部です。公開出来ない内容、まとめきれない部分、動画以外の内容(雑談)などは省略させていただきました。
今回ゲストとして参加して下さったbabanさん、そしてこの記事を最後まで読んで下さった皆さん、ありがとうございました。

各回メインゲスト
第1回:HIROKIさん
第2回:mizugorou_753さん
第3回:さんちぇさん
第4回:津名さん
第5回:まさか!さん
第6回:babanさん
第7回:Pluviaさん
第8回:大麦さん
第9回:こばやしさん
第10回:シャンリーさん
最終回:inaさん
番外編:いはさん

Column

Posted by John