[iha’s column] 君の名は。を読み解き、創作活動に役立てる。
AniPAFE2017始まりました!
まずは初日から多くの方に動画参加、御視聴、御宣伝など頂きました事、深く御礼申し上げます<(_ _)>
こちらのコラムでは普段、動画の事を記事にさせて頂いているのですが、今回はアニメ映画「君の名は。」と創作活動について書き留めておきたいと思います。
新海監督と御話させて頂く機会があった事、円盤が発売されネタバレを気にする必要がなくなったタイミングなどを考慮した結果、この時期にやるしかないと思いました。
ただし、私は雑誌や他の映像・記事を殆ど見たり聞いたりしておらず「君の名は。」について間違った認識を持っているかも知れません。その点、御了承を御願い致します。
[1] 創作前夜 3月11日
新海監督はプロですので、まず作品を作らなければなりません。これは私達アマチュアと大きく違う部分です。
監督は常にネタを考えていました。
日記を見せて頂きましたが、様々な事をそこに書き留めていました。
そして東日本大震災後の宮城県に訪れた時の日記を元に、「君の名は。」の着想を得ています。
「もし自分がここにいたら」
「もし(宮城県の)閖上にいたあなただったらどうだっただろう」
ボランティアや福祉の心構えとしては一般的かと思いますが、そこを創作に結び付けるには、この日記が必要だったと思います。
ちなみに私は宮城県在住で、住居半壊認定を受けている被災者でありますが、この様に創作物で扱って頂ける事に対して、ありがたいとしか思いません。
たまに不謹慎という方がいらっしゃいますが、そんな事を言っていたら人が死んでいる歴史の事を、全く後世に伝えられなくなります。
震災の事が、津波の事が、後世に伝わらなければ、また多くの人が犠牲となるだけです。
常に地震と向き合えと言う事ではありません。
専門家が常に向き合い、毎年3月11日に人々が黙祷を行う今くらいの向き合い方で良いかと思います。
そしてたまに恋愛映画のバックボーンとして使われる。
それで良いのではないでしょうか?
私も日記は以前付けていまして、そこにネタは勿論、調べた事や、創作した詞などを書き留めていました。
今でも調べた事や思い付いた事があると、テキストデータにまとめています。
文章系クリエイターの多くがやっている事だと思いますが、動画クリエイターの方々も、今度はこのエフェクトを使ってみようなど、日々精進という方は多いかと思います。
思い付いても書き留めておかないと忘れますし、他の思い付きと比較が出来ません。
意外と楽しい作業ですし、人生にとっても、とてもためになります。
アニメや動画を見ていて、良い演出があったら書き留めておく、良い曲を聴いたら書き留めておく、など、日々の積み重ねを是非お勧め致したいと思います。
モチベーションも上がります。
[2] 夢と知りせば 男女とりかえばや物語
前作「言の葉の庭」が和歌をテーマにして上手く行っていたので、「君の名は。」もその路線で一度考えられています。
その時のタイトルが、「夢と知りせば」です。監督の好きな路線です。
「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを」
これは古今和歌集に収録されている、小野小町の歌です。
あの人を思いながら眠りについたので、夢に現れたのだろうか。
もし夢とわかっていたなら目覚めないでいたのに。
勿論「君の名は。」の主人公たちは、目覚めさせられる、目覚めてしまうと言うストーリとなります。
何かを参考にする、リスペクト、オマージュと言うのは、決して悪い事ではありません。
盗用は問題ですし、似過ぎているのも面白くありませんが。
ヒロイン、三葉の名前の由来は、「ミヅハノメ」という日本の水の神です。
彗星の名前「ティアマト」は、2つに引き裂かれた、メソポタミアの女神。
「水」は主人公の瀧君を含め、他にも関係する名前が多く、「君の名は。」のイメージを作るのに一役買っています。
[3] とらドラ プラス
「とらどら」は、竹宮ゆゆこの小説、そしてそのアニメーションを指します。
新海監督はずっと暗い作品を作ってきましたが、実は「とらドラ」が好きで、明るいコメディー色がここで一気に足される事になります。
そう言われると、雰囲気や構成、キャラクター関係が何となく近い気もします。
テンプレラブコメとも言えますが。
また、「とらドラ」の竹宮ゆゆこは、高橋留美子や他の少女漫画の構造をラノベに持ち込みたかったと語っています。
何かを足すと言うのは、創作活動において非常に重要です。AMV/MADも然り。
私はこの話を聞いて、何度か「君の名は。」に「とらドラ」の曲を合わせたMADを作れないかと思ったのですが、無理でしたw
[4] キャラクター バランス
私はキャラクターを作る時、キャラが勝手に動き出すまで、設定を盛るタイプです。
ネタ帳から色々なネタを持って来て盛ります。
相関図も作ります。相関図はバランスです。
関係性の弱いキャラには、そこにも更にストーリーを盛ります。
そうする事によって、伏線が増えて行くのです。
逆にあまり関係性の作れなかったキャラは、削ってしまう事もあります。
動画を作る上でも、描きたい要素をきちんと抜き出し、必要ないキャラは思い切って削ると言う作業も必要かと思います。
また、キャラ人気が出る様に、媚びも入れます。
「君の名は。」の主人公二人も美男美女と言って良いでしょう。お色気要素もBL要素も入れます。
しかし、それだけではいけません。
「君の名は。」の二人の主人公は、きちんとどちらも同性から好かれるタイプになっています。
これは多分、「とらドラ」も同じです。
このバランスを間違うと、男女どちらかの人気がガクッと下がります。
動画もそうだと思います。
[5] 背景 5W×2
私は、ここが「君の名は。」が一番優れている所なのではないかと思っています。
これを私は、「5W×2」と呼んでいます。
「When」「Where」「Who」「What」「Why」
これらを二つずつ用意する事によって、誰もが感情移入出来る様に作られているのです。
Who(人物)
男女二人の主人公を配置した事により、感情移入して感動出来る人間が一気に2倍になっています。
美男美女とは言えない友人を、きちんとサブに配置した上に、幸せにしたのもポイント高いです。
Where(場所)
場所は都会と田舎。どちらの人でも感情移入出来ますし、都会に対するコンプレックスも、ある意味解消できるほど美しい田舎と自然を描いています。
When(時間)
高校生(子供)がメインですが、最後に大人時代も描く事によって、大人も子供も感情移入出来る様になっています。
他にもきちんと、バイトの先輩、祖母や父親たち、小学生の妹と、様々な年齢のキャラを配置。
また遥かな過去や、母親の死など、昔の話も重要となっています。
Why(理由)
何でこんな事になったかですが、SFとオカルトの両方が理由として入っています。
また、分かり易いハザード物と入れ替わり要素に、複雑な設定を入れる事により、一般客からマニアまで楽しめる様にしています。
What(何)
結局何を描いたかですが、SFでありながら、スッキリした恋愛、ボーイミーツガールを描いています。
特にこのボーイミーツガールに関しては、大事なので次でまとめます。
どんな創作物、エンターテイメントでも、この「5W×2」はある程度効果を発揮するかと思います。
[5] 時代 何が求められているか
最終的にこの「君の名は。」は、SF作品ではなくて、恋愛作品になっていると言って良いかと思います。
現在、SF業界は下火で、ラノベや少女漫画の方が需要があります。
地味で、文芸作品の様な「言の葉の庭」では、見る人はもっと少ないかと。
売り上げばかりを考えて、この選択をしたのではないと思いますが、結果売り上げが伸びたのも当然と言って良いでしょう。
しかし、恋愛映画全てが成功している訳ではありません。
「君の名は。」は出会いを描く、ボーイミーツガールだったから、多くの人が感情移入出来たのです。
晩婚どころか、恋愛しない若者と呼ばれて久しい昨今。
人々が求めていたのは、成功者達のトレンディドラマや、ドロドロした三角関係ではなくなっていたのだと思います。
しかし、時代と言うのは移り変わる物です。
「君の名は。」が流行った事により、既にボーイミーツガールを求める感情は、ある程度満たされてしまっています。
この点に関しては、同じ事をやっても成功するのは難しいと思います。
かと言って時代を読み切って、新しい物を当てるのも、非常に難しいです。
時代に何が求められているか、動画を作る上でも、非常に重要な事かと思います。
[6] 歌 前世とその次と
さて、主題歌と言って良い、RADWIMPSの「前前前世」ですが、RADWIMPSも、この曲を震災をテーマに作ったと聞いています。
そう考えると歌詞が、また違った物にも読み解けます。
批判される事もある、この曲と演出ですが、動画作家には馴染のあるグループでしたし、何より演出はAMV/MADに近いものを感じたかと思います。
上手い選曲だったと言って良いでしょう。
新海監督は、もう次回作の作業に入っていました。
何を作っているかは勿論聞いていませんが、ここで勝手に、前世編を期待したいと思っています。
最初の隕石落下の頃の話です。
紫式部も、かなり謎のある人物ですし、三葉=紫式部も面白いかも知れませんw
もし、公式で作って貰えなかったら、勝手にMADなどの二次創作を作るしかないかもですねw
[7] まとめ
今や創作とは、AIですら可能になって来ています。
いずれ人間を上回る創作も作り出してしまう事でしょう。
しかし、人間は創作をやめる事は出来ません。
それが、私達の原動力だと思います。
最後に、日本の哲学者、和辻哲郎の文章を御紹介して、創作活動に対する記事の締めとしたいと思います。
私は坂の上に見える深い空をながめた。
小径を両側から覆うている松の姿をながめた。
何という微妙な光がすべての物を包んでいることだろう。
私は急に目覚めた心持ちであたりを見回した。
私の斜めうしろには暗い枝の間から五日ばかりの月が幽かにしかし鋭く光っている。
私の頭の上にはオライオン星座が、讃歌を唱う天使の群れのようににぎやかに快活にまたたいている。
人間を思わせる燈火、物音、その他のものはどこにも見えない。
しかしすべてが生きている。
静寂の内に充ちわたった愛と力。
私は動悸の高まるのを覚えた。
私は嬉しさに思わず両手を高くささげた。
讃嘆の語が私の口からほとばしり出た。
坂の途中までのぼった時には、私はこの喜びを愛する者に分かちたい欲望に強くつかまれていた。
―― 私は思う、要するにこれが創作の心理ではないのか。
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